かんざしには嘘を、××と君には×情を
穴があったら入りたい――誰しも、失態によるあまりの羞恥から顔や姿を見られる事さえ恥ずかしくなり、隠れてしまいたい気持ちに駆られた経験はあるだろう。
その原因が浅はかで滑稽な自分自身であり、周りを巻き込んだものなら尚更。良くも悪くも記憶に深く刻まれ己への戒めとなったり、場合によっては語り草にされる事もある。
少なくとも|深臙国《しんえんこく》に生まれ育った陳明花(チェン・ミンファ)は、これまでの十九年と十月という人生の中で幾度もそのような気持ちを経験している。
たとえば。十五年前、無謀にも一人で裏山に踏み入り、己の力に対する奢(おご)りと浅慮さを思い知った時も。
十年前、重要な意味を持つ手巾を知らずに贈ってしまい、無知と短慮さに気付かされた時も。
他にも諸々。数月引きずり、今でもありありと思い出せるようなものだけでも四度ほど。
そして本日、明花は五度目のそれを経験してしまった。
「え……人形劇、ですか?」
ぽかんと口を開けた明花の頬の横で、埃と土がこびりついた栗色の髪が零れた。
まさに一分の迷いもなく、都市の守護を担う虎狼府の男は大きく頷く。大柄な男の腰で獣の尾にも似た茶の房が揺れる。
「旅芸人の一座で、龍神祭に合わせての演目練習をしていたそうだ」
「では私が閉じ込められたのは……?? それも演目の練習ですか? 鍵を締められた後、声が聞こえたのですが……『殴るか絞めるか。死体は川に投げ込んでおけ』と。多分二番目に背の高い、身分の高そうな方の声だと……」
「お嬢ちゃん」
男は徐々に弱々しくなる明花の声を遮ると、憐れむような眼差しでこちらを見つめた。
「三人の男が物騒な話をしていたら、そりゃあ怖いよな。小屋に逃げたもなる。扉が開かなきゃ閉じ込められたと思うさ。暗くて怖かっただろう?」
男の焦げ茶の瞳には、彼にとってまだまだ子供や若造である相手を諭し、宥めるような優しい色が見て取れる。悪漢達に襲われ、監禁されかけたと思い込む明花を労るつもりである事は明らかだ。
「よく自力で出られたね。さすがあの流星(リュウシン)様の妹御。いや、雪星(シェシン)様の妹御か。どちらにしろ、こんなに愛らしく賢く溌剌なんだ。お二人が溺愛し、いつお嫁にいってしまわないか気が気でないのもわかるなあ」
今は心配性の兄達の話は関係ないかと思われますが。とは流石に言えない。次第に状況が飲み込めてきた明花は、混乱と羞恥に泣きそうになりながらも必死に笑みを浮かべて場を濁そうとする。
しかし結果的には茹で蛸のように赤い顔で音をなさぬ息を漏らし、涙目と鼻声で無難な台詞を妙な調子(テンポ)で吐くという、器用にも見える反応となった。
「兄達が、お世話になって……おります、はい」
「はは! 雪星様には絞られっぱなしさ! だが今回は本当に運が良かった。いや不幸中の幸いか。お嬢ちゃん、今後は建付けの悪い古い扉には注意するんだよ。勢い良く閉めれば、はずみで閂がかかってしまう。それから旅役者の練習にもね」
男は良かった良かったと連呼し、笑いながら調書を書くと隣の部下らしき文官に渡した。部下らしき文官の男は退出し、残った男と女性の文官は手続上の話をし始める。
明花はその間、前の椅子で身を縮めて己に起きた出来事と目の前の男が話してくれた事を考えていた。しかし考えれば考えるほど自分がいかに愚かで、思い込みが激しく、薄っぺらい正義感に駆られて行動したかがわかってくる。欠点を次々と突きつけられるような感覚に、明花は女としては大柄な体を丸め、小さくなるしかなかった。
(私……途中で雨燕に会わなかったら、もっと取り乱してたかも)
そう思うとぞっとする。
小屋の天窓を破壊して逃げ出し、呂雨燕(ルゥー・ユーイェン)に会ったばかりの明花は傍から見ればさぞ奇怪な様子であったろう。髪も服も草や埃や泥だらけ、恐怖から水を頭から被ったように震え、言っている事も要領を得ない。もしそんな姿で虎狼府の屯所に駆け込み、起こった出来事や聞いた事を全てそのまま話していたならば。
門前払いで済むなら上々。父や兄弟達への被害は広がり、兄夫婦の離縁へと繋がる可能性もあったように思える。
さておき、明花は羞恥と安堵と少しばかりの混乱から愛想笑いと謝罪を繰り返し、やっとの思いで屯所の外へと出ると、そのままおぼつかない足取りで門まで歩いた。
穴があったら入りたい、どころか。明花は穴を自ら深く深く掘り、埋まってしまいたい気分だった。今夜に限っては何度埋まっても埋まり足らない。
自分の過ちで他人を悪漢だと思い込んだ事も、勘違いから淑女にあるまじき暴力的かつ直接的な方法で廃屋を壊した事も、震えながら雨燕にしがみついた事も、余計な心配をさせてしまった事も。
今となっては滑稽これに極まれり。羞恥心と罪悪感しかない。
(私、私……そそっかしいし、お兄様達みたく頭も良くないし、浅慮ですぐに暴走するし、直情的でお騒がせで……陳家でも浮いてる存在だとは思ってたけれど……)
あまりの羞恥と不甲斐なさに明花は一瞬だけ辺りを見渡し、鋤(すき)や鍬(くわ)を探しそうになった。
「明花……!」
薄暗い門前で明花を出迎えたのは細身の青年だった。
青年は件の幼馴染み、呂雨燕(ルゥー・ユーイェン)。
彼は陳家とは十五年以上の付き合いであり、代々各府の副長や高位の文官を務めてきた呂家の長男だ。
歳は十九。昼は燐光府の官吏として雪星の下で勤務、夕方からは学問所である仁円光の生徒として八神の神子の一人、『青藍』に師事している。
二足の草鞋を履くのは勤勉な性格と才能を見込まれたが故。お声掛けも時間の問題ではないかとも噂されていた。
紺青の着物に身を包んだ青年は、じっと明花の言葉を待つ。
深臙国では珍しい樺茶色の髪に黒曜石にも似た瞳。普段は柔和な印象を与える端正な顔立ちも、今は眉間に寄った凜々しい眉と青白くも見える肌によって硬い印象を与えている。
不安げな面持ちの雨燕に、明花は勢いよく頭を下げた。
「ごめんね、雨燕。ううん、ごめんなさい……」
案の定雨燕は驚き、制止と明花には何も非がないとの意味合いの言葉を告げる。
しかし明花とて誤解を利用し、彼の厚意を粗末にしたくはない。
明花は人形劇の練習だった事や自分が恐怖のあまり聞き間違え誤解した事、監禁は勘違いであり、自分の失態によるものであった事を全て素直に話した。
「雨燕まで巻き込んじゃって、本当に私の勘違いで……不甲斐ない……」
「そんな……」
申し訳なさに身を縮めている明花に、雨燕は困惑した様子を崩さない。口元は引き結ばれ、益々表情は硬くなる。
いよいよこの人が良い幼馴染みにも見限られてしまったかと俯くと、視線を合わせるように雨燕はしゃがんだ。
「違うんだ、明花。僕は明花に対して怒りを覚えている訳じゃない。明花が謝る必要はどこにもないよ」
こちらを案ずるような視線に胸が苦しくなる。罪悪感と同時に、ついこの間まで明花と雨燕の間で行われていた姿勢と距離感にほっとして。明花は必死に涙を堪えた。
「皆、明花の帰りを首を長くして待ってる。そうだ、明花」
薄闇の中のほのかな灯火のように雨燕は微笑む。
「流星様、雪星様にも伝えておいたよ」
「ええっ⁈ 兄様達にも⁈」
明花を気遣う為であったろう言葉は効果てきめん。否、それ以上に堪えていた涙を引っ込めてしまう。
「ごめん、家族に伝えて構わないと聞いていたから」
「ううん、良いの……雨燕は全然悪くない。私の頼みをちゃんときいてくれただけ、だから……はは」
明花の伝え方が悪かったのだ。『もしかしたら燐光府が扱うような重大事に関わってしまったかもしれない』等と焦って興奮し、言葉が欠けていた自覚もある。心配性だが少々厄介な反応を示す兄達を思い出して、明花は頭を抱えた。
「ごめんね。明花。大事な事だから、つい……次回からは気を付ける。ああ、あと陳様が『芳明(ファンミン)には用事が出来たから遅くなるとだけ伝えた』と」
「良かった。お父様にも心配かけちゃったなぁ」
「大丈夫だよ。……いや、その。僕が言うのもおかしな話だけれど、陳様も芳明も明花をとても大事に想っている……と思うんだ。心配はしただろうけれども、かけられただなんて! そんなことは思わないよ」
雨燕は身振り手振りを交えて、明花を必死に励ましてくれる。
その仕草は彼の家を象徴する狸を思い起こさせる愛らしさだが、いくら人心に疎い明花でも伝えない方が賢明だとは理解していた。
代わりに明花は人の良い幼馴染みへと素直な気持ちを告げる。
「ありがとう、雨燕」
首を振り微笑む雨燕に、明花も僅かに痛む胸の奥には気付かぬふりをして益々眉を下げた。
「雨燕、月が……綺麗だね」
雨燕に先立ち、明花は砂利道を進む。
夜空には三日月には遠く、十五夜には満たぬ弓張月が煌々と白んでいた。あと数日すれぱ雨燕が成人してから初めての龍神祭が始まる。それはこうして一緒に月を見上げ、他愛ない言葉を交わしながら歩めるのもあと僅かだという事と同義だ。
共に過ごしてきた時間を思うと寂しく、郷愁にも似た感覚に胸が切なくなる。この時ばかりは普段自分の性別や年齢を特段の頓着をしてこなかった明花も、男や高齢者であれば良かったと思えてくる。
(男の人やおばあちゃんだったら、これからもずっと、雨燕の家族を不快な気持ちにさせずに書物の感想を伝えあったり、たまに美味しものを一緒に食べたり、こうやってお月見をしたり出来たのかな。兄様達や芳明みたいに)
性別差がなければ。または年齢差があれば。きっと誰しもが迷わず自然な、または微笑ましいやり取りだと思うに違いない。
「明花……あのさ、明日からなんだけれども」
「うん?」
明花はくるりと振り返る。数尺先に認めたのは雨燕の柔和な笑み――ではなく、月明かりの下でもハッキリとわかるほど真っ赤に染まったそれだった。
「明花のこと送り迎えしても、良いかな?」
「っうぇえん、……?!」
声が裏がえり、呼び名は虫たちの鳴き声の中に消える。心臓が早鐘を打ち、明花は告げられた言葉を飲み込もうと胸を押えた。
(送り迎え? あ、あぁ、そっか。小さい子を連れ去って他国にって悪い人もいるから、心配で?!)
ようやくそれだけの納得できる答えを導き出し、明花は断りの言葉を探す。
「だって、あの、ユーイェんは帰り、仁円光……」
「先生には許可を貰う。融通はきくと思う」
熱っぽい漆黒の瞳が明花を見つめる。
おかしいのは明花の頭か耳か、心臓か。雨燕ではない事は確かだが、幼馴染みという経験に即した感覚がその考えを真っ向から否定する。
「いい、の? だって忙しいし、私いい大人なので、あっ内臓……! いやでも、臓物は大きいかもしれないけど大人は攫いにくいと言うか? ほら! 返り討ちもできるから?!」
自分でも伝わるような台詞でないとわかる。しかしそこは長年の付き合い故か、雨燕は明花の思考回路を読み取っていたようだ。雨燕は僅かに眉を顰め、苦しげに明花へと言葉を返す。
「秘術の為の臓器売買も含めて、大人だから心配なんだよ……いや、僕が付き添う謂れは何も無いのだけれど……」
「ううん、有難いよ?! あの、でも、その……それは」
動揺し冷静さに欠けているとは言え、流石に『恋仲でも無いのに』とは虚しさと自惚れが過ぎて言えない。
「それは、でもその……返り討ちが出来ない方の為にとっておくなど……」
「僕がしたい」
揺るがぬ意志のように聞こえて、明花の心臓は益々速くなった。
明花は確信する。やはりおかしいのは明花自身。耳も目も。雨燕の様子がおかしいように感じるのは受信側の調子のせいだろう。
そうでなければ辻褄が合わない。
婚姻相手として避ける条件しか揃っていない明花を選ぶ事も、思わせぶりな言葉を伝える事も、明花が信じる雨燕の行動とはかけ離れている。謙遜でも卑下でも過信でもなく。堅実、真面目で家族想い、加えて婚姻に焦り人選を誤るような彼でもないと信じているからこそ、明花がおかしくなったとの結果にしか至らないのだ。
ところが。
「心配なんだ。また、拐かされないか。危害を加えられるかもしれない。そうでなくともこんなに暗いんだ。返り討ちできるとかできないじゃない。僕がしたい……明花さえ良ければ、明花を送り迎えしてもおかしくない関係になりたい……」
一歩。雨燕は近付いて、真っ赤な顔と真剣な瞳は明花を捕らえた。
「好きです。貴女のことがずっとずっと好きでした。僕は明花のお婿さんになりたい。今年の龍神祭……良かったら明花のお茶が飲みたい」
さらに一歩。長年変わらなかった距離は、あっという間に幼馴染みの距離でなくなる。
「少しでも嫌だったら、言ってください。僕は明花が不快に思う事はしたくない。それこそ返り討ちにでも……」
「か、返り討ちはしないよ?!」
明花はやっとの事で雨燕へと言葉を返した。
「良かった」
雨燕は心底嬉しそうに微笑むと、遠慮がちに手を差し出しはにかんだ。
「明花の手を取っても良いですか?」
「うわはぁっひっ?! はい!」
明花は飛び上がり、反射的に両手を差し出してから、何かを間違えたと悟り左手を引っ込める。
明花よりも大きな手に残った右手を包まれ、軽く握られた。今になって「緊張の手汗が気持ち悪いでしょうから」とは辞退出来ない。明花は雨燕に導かれ、覚束無い足取りで砂利道を進む。
未だ脳内は事の次第を処理出来ず。明花は必死に龍神祭とは何か、茶とはなんの事だったのか、はたして先程の雨燕の真意はどこにあるのか考える。
しかし幾ら考えても、真面目な彼があの場で発した二文字は特別な男女間の愛情を示す言葉だとの答えにしか行き着かない。
どんなに別の視点や思惑の可能性を考えようとしても、明花の自惚れを裏付ける知識と記憶しか出てこないのだ。
(おかしい……雨燕が? 私が? なんかフラフラするし、私何か変な物でも食べた?! 気づかないうちに小屋の屋根とかに頭をぶつけてたとか……)
思い当たる節が無きにしも非ずなだけに、明花には今が冥府か現世かの区別もつかなかった。
「陳殿には明日にでも改めてご挨拶に伺いに……。その、あくまで帰り道の警護のご相談と龍神祭の初日にお伺いして良いか承諾を得るだけだから……安心して」
「あ、うん。あっ、ありがとう!」
「……明花の気持ちが決まったら返事して欲しい……その、どんな返事も受け入れるよ」
「……⁈ 雨燕、雨燕はその、本当に……」
なおも明花へと逃げ道を残して話を進める雨燕は本気なのだろうか。本当に明花で良いのか。たった一言。もう一度確かめれば良いだけなのに。言葉は喉の奥につかえ、意味を成す言葉になることはない。
それでもそこは幼馴染み、長年の付き合いは伊達でない。雨燕は少しの間明花の反応に瞳を瞬かせて戸惑っていたが、すぐに整った面立ちに柔らかな微笑を戻すと明花の手を引いた。
「本当に明花のことが好きだよ。幸せになって欲しいけれども、僕とずっと一緒に居ても欲しいから……求婚をしてます」
「きゅ……っ‼」
「明花?!」
あまりの衝撃に膝はあっさりと折れて、明花は腰を抜かしてしまう。寸でのところで雨燕が支えて事なきを得たが、雨燕がいなかったら水路への転落で再び虎狼府の役人の世話になるところであった。
「大丈夫?」
「う、うん」
腰に回った雨燕の手は熱く、距離はいつにも増して近い。男女の接触に慣れぬ明花の心臓は、今にも口から飛び出してしまいそうなほど激しく飛び跳ねている。
雨燕も明花の用水路転落の危機が過ぎ去った事で現状の不自然な姿勢に気付いたようだ。我に返ったように項と頬を朱に染めたが、すぐにそれは色を失ってしまった。
「ゆ、ういぇん……?」
「明花、やはり僕が負ぶるよ」
雨燕の申し出に明花は理解が追いつかない。
わかっているのは怒濤の展開に感情や思考が追いつかず、自分が冷静な判断能力に欠けた状態であること。それから、心臓に負けず劣らず目の前もぐらんぐらんと揺れることと、雨燕がとても難しい顔をしていることだけだ。
「や、重いし。腰はこの位なら伸ばせば……」
「それで治るなら流星様も喜ぶだろうけど。駄目だよ、明花。安静にしないと。熱も出ているようだからすぐに診て貰おう」
医療に携わる兄を引き合いに出し、強い言葉を言い出すなんて。
こうなった雨燕はすこぶる手強い。まるで母親のように引かないのだ。早くに母を亡くした明花にはそれが確かな比喩か確かめる術はないが、とりあえず今は従うしかない。
「雨燕、ごめんね」
「良いんだ。それより痛みはどう? あまり痛むならば、人を呼んで安静にしたまま運ん……」
「いい、いいよ! そんな大事じゃないから!」
「そう……?」
疑いの眼差しを向ける雨燕に明花は何度も頷く。その度に視界がぐわんぐわんと回った。
「明花」
雨燕との距離が再び近付く。
明花の性格を知り尽くすが故に、眉を顰め、凄みを増していた雨燕は跡形もない。
世の女性が目指すようなきめの細かい肌にすっと伸びた鼻筋、切れ長の目とそれを縁取る長い睫毛。目元の凜々しさを親しみやすい柔和な印象へと変えているのは、太めの下がり眉。それが今は普段よりもさらに下がっている。
「ちゃんと僕には言ってね……」
火照った明花の耳にひんやりとした雨燕の指先が触れた。
思わずびくりと肩を揺らすと、雨燕も慌てて手を引く。
「ご、ごめん!」
「ううん、うん?! あの、ちゃんと言うよ!」
互いに微妙に要領のえないやり取りを交わしながら、明花は雨燕におぶられ陳家へと向かった。
高熱で朦朧とする明花が雨燕の様子を正確に図れるはずもなく。同時に、今までにない近い距離と接触に緊張しつつ、悪化する明花の体調を憂慮する雨燕にもそのような余裕はなく。
闇夜は互いに互いの様子を覆い隠し、深まっていく。
「あ! 雨燕さん! あれっ?! 姉様どうしたの?」
朧気な意識の中、弟の芳明の声が聞こえたのを最後に、明花の意識は途切れてしまった。