かんざしには嘘を、××と君には×情を
翡翠神の独白という名の暴露+何かに目覚める話(短め)
※女性側が上に乗ります。精神的なものは男性優位です。
「大丈夫かなぁ……」
現世(うつしよ)の円環の外れ、人が決して達せぬそこで神と敬われた翡翠色の龍は唸った。実際には龍神の思い付きに数千年振り回されているだけであるのだが、それはさておき。
彼は新たに自身の神子となった翡翠、すなわち元呂雨燕を案じていた。
彼が最愛の妻とようやく最後まで交わってから数日。
「大丈夫だとは思う。しかし万が一にでも、力が大きくなり過ぎれば色々と面倒臭い事になる……だがなぁ、新婚の彼に八十年先の老後のもしもの話をするのはやはり取り越し苦労というものだろうか?」
端的に言えば、翡翠の憂慮は龍神でさえも有り得ないと断言するようなものだ。
約百年後、長年の鍛錬の成果により、神通力が増大し彼が神格を得る畏れがあるなど――まずもってして有り得ない。
「ううむ。もともと呂雨燕は性的な欲求がそれ程強い者ではないし、頭かなにかを打って道を踏み外して、みっくんみたく女性を取っかえ引っ変えして房中術に取り組まない限りは大丈夫だと思ってたんだけど。まさか相手は一人だけど効果が絶大とは……しかも思ったよりあの子との生活の効果も出てるんだよなぁ」
まさか来るか来ないかわからぬ未来の為に少々心身を痛めつけて力を弱めて欲しいとか、愛する伴侶と離れて暮らして苦しんで欲しいとか、望めるわけが無い。
翡翠も神。等しく人間には幸せになって欲しい。それがたとえ人でもなく、神でもない専属神子となった呂雨燕であってもだ。
「まあ大丈夫でしょう。深臙の地が大きく沈下でもしない限りは。みっくんが神様増やすとは思えないもの。それよりも何故、だよね」
翡翠は独りごち、答えの出ない不安と振り払うと新しく神子となった男の様々を思い出す。せめて原因を突き止めようと、神子となる者の調査の為に仕方なく盗み見た日記と記憶を振り返った。
なにか特定の相手との関係が良好であると、神通力の総量が爆発的に増大するのであろうか。
それとも神通力の総量そのものは変わらぬものの、秘められていた彼の能力そのものがそれ以外の部分――感知するこちら側や彼以外の者の力――理そのものを転換させているのであろうか。
「ううーん。呂雨燕の特異な点……あの子への反応?」
性的な欲求が一人の人間に偏っている。それは呂雨燕に見られる特徴のひとつである。
先に口走ったように、確かに全体を見れば呂雨燕の性的な欲求は一般的な男子に比べて薄い。
しかしそこに陳明花を除いては、との文言が付け加えられてこそ、それは実情を正しく表していると言えるものだ。
おそらく、明花の足首が見えただけで緊張して目を逸らそうとし、つむじや項が目に入っただけでどぎまぎするのはこの世を探しても彼だけだ。
加えて男女のあれそれに強く興味が出てしまう年齢に、明花の二の腕に触れただけで慌てふためき興奮し、帰宅後、大事な部分を|勃起さ《たた》せてしまったのも彼だけであろう。
女子に対して羞恥こそあれ、一切の邪な欲や興味を示さない男は呂雨燕の他にも多少はいるかもしれないが、一人を除いてとなると稀有である。
神獣或いは珍獣とでも言えようか。
その源は彼の宿した神通力の多さなのか、はたまた確かな知識と能力と、勤勉な姿勢と妄想力が成す|奇跡《もの》か。
兎角、呂雨燕の妄想力(?)や性的欲求は幼馴染みの女性特化型。明花への自身の想いを重ねてか、温厚で真面目な性格故か。一途で純粋な愛が底にはあれど、俗に言う変態的な行為に抵触しそうな欲も孕む。
神通力は当体の様々な状態と絡む。さらには房中術においての肝が陰陽の交わりと力の均衡にあると見るならば、呂雨燕が持つ欲の陰陽の特質が事に関与しているのであろう。
「うーん。特質……。参照数がなぁ。温朱夏のいい人は僕と出会う前に亡くなってしまっていたし、それまでは学問一筋の者ばっかりだったし……最近の男女についてはわからない」
翡翠龍は知識を好む神である。知的好奇心旺盛、もちろんそれは一介の神をも未踏の万象の法則にも至る。
年齢を理由に原因究明を諦めるなど以ての外。
翡翠色の龍はくるりと回り、仮初の姿へと変化する。
「人が残した書には先神の記憶が宿り、神が触れた草木には理が刻まれている! ……うん、これは調べ甲斐があるね」
翡翠龍の顔に喜色が浮かんだ瞬間、何も無いそこに爽やかな風が吹く。
呂雨燕と翡翠の共同研究(決して淫猥なものではなく、神通力と諸術の相関性研究、神格に至る過程と素養等の諸条件の抽出と精査という純粋なものである)の始まりがこの日であった事は間違いのない事実である。
★★★
「う……くっ、あ……」
「ん……」
耳を覆いたくなるような淫らな水音が響き、両者から艶めかしい声が零れる。
手間取りながらも口付け合い、互いに想いを口にし、甘く思い遣りながら交わって。先ほど雨燕は明花の中を白き愛情で満たして、一度果てた。
あとは甘い時間を過ごしながら、微睡み眠りにつこう――などと明花は思っていた筈。そしてそれはおそらく雨燕も同様に、今夜はもう眠ろうと思っていた筈であった。
ところが互いに触れ合い、感想や感謝の言葉を述べ合ううちに、明花の身の内に染み込み潜んでいた熱は上がってきてしまった。
閨であっても意見を出し合うと決めたものの、思い遣りたい明花は悩み、なかなか口にはできず。しかし長年の付き合いがある雨燕が明花の迷いに気付かぬ訳もなく。雨燕から今夜、今一度の申し出があったのがつい先程。
そして何故か今、明花は雨燕を押し倒し、その引き締まった体の上に乗っていた。
明花自身もどうしてそのような事を頼んでしまったのかわからない。ただ、単に書物に記してあった方法を試してみたい、視覚的優位性が認められるとの説明書きを立証してみたい――などとという好奇心のみではない気がした。
強いて言えば、一連の行為を知り甘い時間を過ごすうち、雨燕の好みを探りたいとの想いが強くなってしまった結果と言えよう。
兎にも角にも、明花は雨燕の腰に跨り、ゆっくりと猛る雄芯へと腰を落とした。
「んっ……」
「っあ、っく……」
互いの唇からそれぞれ艶めいた吐息が漏れる。
雨燕の華奢な体躯からは想像できぬ凶暴な雄は、濡れそぼった花弁を押し分け白濁残る隘路を再び埋め始めていた。
自身で加減ができるだけに、奥を埋めるような圧迫感と痛みから腰が引けてしまうかもしれない――そう前もって素直に明花は伝え、その上で雨燕とそういう事もしてみたいのだとも伝えた。
しかし何のことはない。口にした数々のほとんどは杞憂であったようだ。
雨燕の執拗ともみれる丁寧さは功を奏し(?)、明花の高い身体能力と筋力、我慢強さや自重も手伝って、破瓜の時ような体を引き裂かれるようなひどい痛みはなかった。
明花は雨燕の様子を伺う。
熱っぽい瞳は潤み、頬は朱に染まっている。不思議と柔和な印象を与える太眉は下がり、眉間には僅かなしわが寄る。先ほどまで何かに耐えるように引き結ばれていた口元は端だけ薄く開いていた。
雨燕は明花の視線に気付くと照れたように微笑み、ため息とも笑い声ともとれぬ艶めいたそれをひとつ零す。
微笑みが快楽に蕩け心から喜んでくれたとう証なのか。はたまた快楽を甘受した己を恥じ屈辱を滲ませぬよう浮かべたものなのか。仕草から雨燕の気持ちの詳細までは量れなかった。
「……明花」
「あ……雨燕、」
奥を満たしていた雨燕がぐっと大きくなって、明花の戸惑いは掻き消える。
腰を掴まれたかと思うと、眼下で艶かしい体が蠢き、ぴったりと埋まっていた熱が最奥を押した。
明花は思わず嬌声を漏らし背を反らす。
「あっ、や……」
「君の中……気持ちいい、もっと……」
明花の背に大きな手が回り、自然と明花は雨燕の胸へとくずおれる。星が散ったばかりの明花の視界は未だ薄白く、雨燕の蕩けるような声と吐息がより一層近く感じられた。
汗ばむ肌が張り付き、快楽を煽る。
激しくも優しい抱擁には、雨燕の秘めた愛情と劣情が混じっているようであった。
「全部……僕でいっぱいにしたいんだ。明花が僕との事しか考えられなくなって、全部。全部……」
雨燕は明花の体を抱き締めながら、器用に中を撫でさする。
甘く、優しく、執拗に。唇から零れた本音を余すことなく証すように。
猛る雄は明花の好きな所など知っているのだと言わんばかりに快楽を刻みつけていく。
「あっ、やっ雨燕……あぁ……っ」
雨燕に揺さぶられ、深く奥を穿たれる度、明花は甘い頂まで登りつめる。滲んだ視界が真っ白に弾けては、素直に明花は雨燕の熱杭を食い絞め、溢れる気持ちを伝える代わりに雨燕をぎゅうと抱き締めた。
「明花……っく、……ぁ」
やがて少しだけ高い声が雨燕から零れて、明花の中で張り詰めていた熱が弾けた。それは震えながら白き熱で明花の中を温め、染めていく。
「雨燕」
白む視界の中で明花が抱き締めると、雨燕は再び艶声を漏らし、びくりと体を揺らす。速い心音が鼓膜に届いて。顔を上げた明花と雨燕の視線が交わった。
「……明、花……」
明花の胸が跳ねる。全身を薄らと朱に染め、快楽に蕩ける夫がそこには居た。未だ熱っぽい眼差しでじっと明花を捉えたまま、雨燕は緩慢な動きで明花の腰に手を這わす。
(雨燕って、こんな……)
自分との情事をこれほどまでに喜んでくれていたのか――明花の胸はきゅっと甘く締めつけられる。
「雨燕……!」
欲の余韻を纏わせた唇へ明花は口付けた。深く交わらせ、一時(いっとき)離したそれで無限大の好意を告げて、返ってきた雨燕の気持ちが同じだと満足して微笑んで。再び芯を取り戻し始めた雨燕に気付く。
勇気を出し、明花は雨燕の耳朶を口に含む。息を詰め、それでも嬉しそうに微笑む雨燕にますます明花の鼓動は速くなり、ついには本心を囁いた。
「ごめんね。私、雨燕のことつい、可愛いって……」
恐怖に固く閉じた明花の瞼に、雨燕の柔らかな唇が触れる。
「嬉しい。明花に言われるなら……すごく」
見上げてくる夫の眼差しは甘く、照れた表情もまた愛おしい。
既に触れ合う温もりには再び明花と雨燕、二人分の熱が宿り始めていた。